2006年05月31日

Web受託ビジネスの問題と改善

うちの会社にも大いに関係のある問題だと思います。

「ビジネスでWebを作る」立場ってのは2つあって、Webを受託して作るお手伝いをする立場と、自社のビジネスとしてWebを作るという立場の二つがある。

受託側はお金をいただいて、高い品質のWebサイトデータを成果物として納品する。
サービスする側は自社の利益を最大化するようにWebを作る。

この「作る」という言葉の範囲が、受託する側とサービスする側に微妙な差異があるように思える。

まず本質的なところとして、WebがCD-ROM、紙媒体やアプリケーションと違うのは、Webはリリースしてからが始まりだということ。表現は適切ではないかもしれないが、現実的にはWebを作ったところで全てが完璧に完成していることはなく、リリースしてからの改良、改善のプロセスをまわしていくことは重要だ。SEOを含めるとリリース後の更新サイクルの判断こそが重要なケースもある。

Web2.0の概念で「永遠のベータ版」と言う言葉がある。この意味は、中途半端でもリリースしてあとから直せば良いということではなく、こちらがいくら頭で考えても、ユーザーの反応や使い勝手は完全にはわからないため、ニーズがあるかないかが未確定なものにあまり工数を割くのではなく、なるべくシンプルにスモールスタートで初め、リリース後の反応から改善したり、新しい機能を追加していきましょうというものと自分は解釈している。

現実、「考えすぎた仕様」はあまり使われないもので、それとはまったく違う「想定外の出来事」に対して、全然別方向に機能改善をしていく現実があったりするものだ。

この概念は、別にWeb2.0というバージョンを切るものではなく、本来、Webとはこういうものであるということ。それは個人のホームページが更新しないと誰も来なくなるという基本原則からも明らかだ。

コーポレートサイトは、住所情報や事業内容を紹介すれば最低限、事足りる部分はあるので、「あれば良い」と思っている方もたくさんいるだろうが、明日の企業を担う学生が就職活動でWebを見て、企業の将来性に潜在的な印象を与えることはあると思うし、B2CであればWebを使って商品のファンを増やす活動はもはや常識だし、B2Bにおいても顧客やパートナー企業に対して自社の商品の情報支援をすることが、自社の商品選択の重要な要素になっているケースは少なくない。

あらゆる人がインターネットにアクセス可能になりつつ昨今、企業が日々ビジネスをして新しい活動をしていくのであれば、当然Webも日々進化していくべきである。

ところが現状、受発注の関係において、Webの継続的発展をしていくにはいくつかの問題がある。

そもそも、まず多くの受託ビジネスのゴールは基本的に「リリース」である。

期日通りに納品物を作る。後のトラブルは瑕疵責任であり、手離れよく、次の案件をこなすというモデルだ。

もっとも売り上げが上がるのは新規案件であることから、これを繋いでいくお金の儲け方で、リリース後の対応は、「ポストセールス」=「アフターサポート」というフェーズの考え方である。

しかしWebの本質が「永遠のベータ版」であるなら、一般的な受託ビジネスの考え方があてはまらないのではないかと思う。 更新作業こそ、Webの商品価値を上げるサイクルであれば、そもそも「アフターサポート」ではないと考えるべきだと思う。

まぁそもそもWebの制作会社はポストセールスもアフターサポートも特に概念として意識しておらず、せめて専門の部署がいて、そこに引継ぎでもしてやってく体制があればまだしも、現実的には、特に役割のわけ隔てなく、通常の制作グループが通常業務としてこなしていることであろう。

現状、更新に対する予算が取れない発注者というのは多く、結果、「更新は儲からないから、あまりやりたくない」と思ってる人はかなり多いのではないだろうか。新規案件 vs 更新案件という視点になれば、更新作業はミスした時のリスクが高いし、打ち合わせも含めると時間効率は高くないし、単位時間あたりの発注金額の勝負となれば、多分、新規案件にかなわない。

それが故に、エース級がアサインされなかったり、そもそも対応がおざなりになって、クライアントとの関係がうまく継続できないケースがあることだろう。

結果、関係が切れてしまうこともあるし、そもそも制作者レベルだと新規で新しいデザインや新しい技術にチャレンジしたいと思っているが故に、営業以外の人は、新規を望んでいたりもする現実もあるのではないだろうか。

これでは毎回、リニューアル時には新規制作になりかねない。一見、新規案件があって儲かるように思えても、同じものを二度作るのはかなり無駄なことだし、まったくゼロからのスタートではない新規案件は、日々の更新で肥大化した既存ページの見積もりの誤りも起きがちだし、再設計のコストが見えにくいわで思いのほかリスクが大きい。それに長期で見たら、継続発展を続ければ、本来達成できたハズのWebの効果を発揮できないことになり、対コスト効果が低くなる。結果、Web制作そのものの市場規模にも悪循環をもたらすのではないかという危惧を持つ。

日々の更新の継続的関係を重視し、次回リニューアルも慣れた会社が継続的発展を目的として改善を行い、企業に対して最高のWebを作ることを目指すのが理想である。

それに中長期スパンで営業費の削減、受注リスクの低減などがあるので、安定した受託ビジネスの運営というのを考えたほうが、トータルの工数も少なくなるのは当たり前だと思う。

しかし日々の売り上げはやはり重要で、数字に責任を持つ営業の人には、あまり求められないことも正直言ってある。しかし、だからこそ、日々の感情に押し流されないように業界全体として、継続的改善というWebの本質に従ったビジネスフレームワークを描けなければ厳しいという見方をしている。

何故ならそもそも新規案件は更新案件に対してプロジェクト運営のリスクが高いハズだ。故にメインで担当する人材はエース級が求められ、Web特有の短い納期に対して、人材を育てる余裕がない。(途中だが、それにチャレンジする会社は当然あることは一応、付け加えておく。)

本来、継続的作業をチームで行うことで、後進の人材は先輩の仕事を覚えていきやすい。標準品があるような仕事では、このサイクルで人材を育てていくのは普通のことだと思うが、単品の特注販売であるWebでは、結局、個人のスキルを前提にせざるを得ないとこがある。

余裕のない案件に、不適切な人材をアサインすると、途中で心が折れてしまったりして離職率が高くなり、結果に火のついたプロジェクトをフォローするエース級の負担が高くなって、余計に人材育成の余裕を失い、エース級の人材の心も体もすり減らしていくという悪循環。

当然、会社としても効率が下がり、人材を育てられない業界は間違いなく先細りだ。
既にここ数年から人材の層が薄くなっていると感じている制作会社も少なくないのではないだろうか。今年あたりから制作会社から新卒で人を育てるという声が活発化してきているように思えるが、そういう問題意識を持っているからこそである。


先日、自分もモデレータと言うスタンスで参加しはじめた、さる集まりで、クライアントの視点からWeb制作会社とhappyな関係を作っていくためにはどうすればいいか?という会議があった。そこでの意見と、自分が今まで持っていた意見を集めて以下のような表を作ってみた。 Web2.0の表現方法のマネであるが、バージョンは、「できてない会社」を0.5、「できてる会社」を1.0とした。(上に書いたことなど、とっくにわかっていて、ちゃんとやっている会社もあると思うから。)
■Web受託0.5 ■Web受託1.0
1.自社サイトの制作作業はプライオリティが高くない。十分にメンテする工数が確保できない。 1.自社サイトは重要な商品カタログ。自社の商材として業務上のプライオリティが高い。
2.ディレクターの悩みは顧客担当者が上司にひっくりかえされること。 2.ディレクターはコミュニケーションのプロ。顧客担当者が社内稟議を通りやすくするよう支援する役割。
3.「リリースして手離れ良く」がビジネスゴール 3.リリース後にWebサイトをどう育てるか?という継続的発展を重視。中長期スパンで顧客との継続性を考え、儲けられるよう努力する。
4.新規案件で食いつないでいく 4.既存案件の継続改善を重視。また既存案件を明日の新規案件にどう活かすか連続的に考える。
5.顧客のWebがリリース後どうなってるか知らない 5.顧客のWebが日々どうなっているか知って、改善努力を怠らない。
6.営業はWebがわかってなくても売ってこれればOK。 6.営業は顧客と自社との重要なインターフェース。  信頼関係の構築および顧客の現状を社内に伝達するための重要な役割。
7.即戦力重視、人材を育てる余裕などないので基本は担当者丸投げ。 7.人材の育成を前提としたマネジメント。


これの実現に最終的に重要なのは、クライアント側のWebに対する意識である。

発注する会社と受注する会社が違う以上、最後はお金の関係である。新規には予算が取れても、日々の更新には予算が取れない会社は多い。それでは単純に制作会社の力を発揮することは不可能である。

しかし、その予算を引き出す役割は、制作会社が持つべきだ。なぜならクライアントはWebのプロではないし、市場を作っていくのはお金をもらう側である。ここは市場があるからとやっている会社と、自分達で市場を作ってきた会社では実力差があることだろう。

制作側はWebのビジネス効果について提案して、顧客側担当者と一致団結し、予算を勝ち取りに行くアドバイスをするぐらいの関係を持つことは重要ではないだろうか。(これが一番難しい)

また制作側の社内の意識も重要だ。
リリースしたら、もうそのサイトから興味がなくなるようでは困る。しかし現実的にリリースしたサイトが日々どうなっているか?を把握できてる会社はどれぐらいあるのだろうか。

一緒に作っていくなら最低限、日々のアクセスの集計情報ぐらいは共有するべきだと思う。
情報が見えなくなると、人は意識から離れていく。

クライアントとのインターフェースである営業は、Webサイトが日々どうなってるかを、受託側の社内にも伝える努力をすべきである。こういった活動が元で、社内から改善要望の声が上がってくるぐらいが望ましい。

クライアントと営業担当者は、できるだけエンドユーザーの声を制作会社内部にも伝えて欲しい。


こんなことはとっくにわかっていて、実践してる会社もあるだろう。しかし、制作者の声を聞くと、日々の案件に振り回され、前のめりで考える余裕が持てない構造的な状態になっているケースは少なくない。

「次もあるから今回安くして」というのは、クライアント側からのよくある値引き理由だが、それを一時しのぎの値引きの言い訳で終わらせてしまったら、良いWebにはならないし、結局ハッピーにはならないと思う。どうやって適正利益を得るように挽回していくかというのは重要な制作ビジネスの駆け引きであろう。そのサイクルは、Webがよくなることを中心に行われるべきだと思う。

現実的にはとても難しいことは十二分に理解しているつもりだし、各担当レベルでは改善をしたい人などもたくさんいるだろうし。だからこそ、できる企業はどんどん実践、改善していって欲しい。そして、その実績を公開してください。

パレートの法則に対する、ロングテールような新しいビジネスデザインパターンを作り上げて、あまりそれが実践できない会社は成功モデルをマネすることが当たり前とかになったらいいんじゃないのかなぁと思う。

スキーでよくある光景だが、斜面に振り回されて、後傾姿勢でやっとこさターンしている状態ではいつ転ぶかわからない。前傾姿勢で、自分でターンをコントロールできるように改善していけたらいいんじゃないかと思う。そのためには攻めの姿勢が重要だ。

サービス提供側に転職してしまったので、あまり偉そうなことを言うまいと思って、汎用的に書くつもりがついついこんな文章になってしまいました。気分を害された制作会社の方がいらっしゃったら、先にお詫びしておきます。

→ F's Garage typeC
posted by Mts! at 00:31 | TrackBack(0) | IT関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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